日中韓や東南アジア諸国連合⁽ASEAN)15か国がRCEP⁽地域包括的経済連携)に署名したとの報道を聞き、このところの世界の内向き志向の流れの中で、自由貿易の大事さを改めて感じました。
ふと、学生時代に学んだリカードの比較生産費説を思い起こします。
デヴィッド・リカード(David Ricardo)は、自由貿易主義を主張したイギリスの古典派経済学者です。
比較生産費説は「比較優位の原則」に基づき、自由貿易主義を後押しした重要な思想です。
薔薇(プリンセスチチブ)
【比較優位とは】
比較優位とは、貿易において各国が最も得意な分野に特化・集中することで労働生産性が上昇し、互いに利益と高品質の商品を享受できるという現象をいいます。
リカードは比較優位の原則に沿った経済運営を行うことにより、
- 自由貿易は各国に利益をもたらす。
- 各国は得意分野の商品を輸出するべき
- 比較優位によって各国の利益は増加し、財の質は高まる
とし、また絶対優位よりも比較優位を重視するべきと主張します。
これを例を挙げて説明します。
アインシュタインと助手 ⁽前提) ●アインシュタインは助手より、研究も翻訳の能力も優れている。 →アインシュタインは研究にも翻訳にも「絶対優位」を持つ →では、アインシュタインが研究も翻訳も行うべきか?
(結論) ⇒アインシュタインは研究に集中し、助手が翻訳を行うべき⁽比較優位⁾ |
こうしてリカードは、“自由な貿易はどちらの国にも利益をもたらすため、自由貿易を推進すべきだと主張しました。
但し、比較生産費説は単純化された前提であり、問題点もあります。
比較生産費説では、生産効率が悪い産業がつぶれても、比較優位を持っている産業がこうした資本や労働力を吸収してくれるとしています。
しかし、30年間農業一筋でやってきた人が、工場労働者としてやっていけるでしょうか。
実際には産業がたくさんありますから、もう少し広い産業分野から自分に合った仕事を見つけることになるのでしょうが、それでも、慣れた仕事を離れ、まったく別の職業に変わるというのは並大抵のことではありません。
リカードの比較生産費説はこうしたコストをすべて無視しています。日本の農業とTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の問題を考える場合でも、こうした視点は重要です。 |
【保護主義の流れを止めろ】
先進資本主義各国は、これまで長い間「自由で開かれた市場」こそ目指すべき姿と信じて、経済運営を行なってきました。
しかしここにきて米中の制裁関税の掛け合いなどに象徴されるように、トランプ政権のアメリカ・ファーストに代表される、露骨な自国の利益最優先の考え方が世界で横行するようになってしまいました。
蔓延する世界の保護主義に歯止めをかけないと、資本主義経済は出口の見えないまま、さらに停滞の一途を辿ることになります。
加えてコロナウィルス感染拡大が世界経済に及ぼす影響は、計り知れないものがあります。
自由貿易協定がもたらす新たな可能性に期待したいものです。