何年か前に家族で旅行した時、現地の日本人ガイドから聞いた衝撃的な情報を思い出しました。
それは、今でもアメリカ軍の施設は、食堂やトイレが白人専用、黒人用と分かれているというものでした。
当時、オバマ政権の最後の年だったように記憶していますが、純粋白人以外の大統領を誕生させたこの国が、未だにそのような区別をしているのかとショックを受けたものです。
以来、白人警官が黒人被疑者に不当な暴力を振るうといった事件が度々起きます。
米国では、2014年から2019年までの6年間に警察の取り締まりによって死亡した黒人の数は1900人を超え、その人口比に占める割合は白人、ヒスパニック、アジア系よりも2~3倍高くなっています。
今回の白人警官の暴行による黒人男性死亡事件は、これまでにない「黒人の命を守る」運動として広がりを見せています。
そしてアメリカ国内の抗議デモは隣国カナダをはじめ、欧州各地に飛び火しているのです。
自国優先主義を露骨に打ち出すトランプ政権ですが、この政権が誕生した背景に、かつての白人が黒人を奴隷として扱い世界第一の国にまで発展させた時代への白人高齢者のノスタルジーがあったような気がします。
南北戦争後に、それまで虐げられた扱いを受けていた黒人達は奴隷の身分から解放されました。
しかしその後も解放された黒人たちを脅し、服従させる目的で、白人至上主義者などの扇動集団が黒人に対して「私刑」を行うという事件が度々起きます。
その背景には「自分たち白人の方が優れている」という人種的優位性を誇示すると同時に、一方で「いつか黒人奴隷に対して行った虐待の復讐をされるのではないか」という不安を打ち消す目的もあったようです。
これまでの米国の歴代大統領のほとんどは、民主党、共和党を問わず、白人至上主義団体を非難してきましたが、逆にトランプ大統領は彼らを擁護する発言を繰り返し、身内の共和党議員からも「この国の特質を理解しているとは思えない」などと批判されています。
その結果、トランプ政権下では白人優位思想を掲げる「ヘイト集団」の数や、差別や偏見に基づく「ヘイト犯罪」の件数が急増しています。
そしてトランプ大統領は差別に苦しめられている人たちの声に耳を傾けることなく、平和的に抗議している人たちを力で押さえつけようとしています。
そして「必要ならば、凶暴な犬や強力な武器でデモ隊と戦う」「略奪が起きれば、銃撃も辞さない」などと挑発的で強硬な発言を繰り返し、抗議デモの火に油を注いでいます。
その結果、大勢のデモ隊が首都ワシントンにも押し寄せ、ホワイトハウスの前で火を放ったりしたため、大統領は地下室に一時避難せざるを得ない事態となりました。
過去の人種差別の歴史や人種的不平等の現状を理解しようとせず、白人優位思想を扇動しているトランプ大統領には、米国の根深い人種問題の解決に本気で取り組む意思はないようです。
新型コロナウィルスの初期対応に失敗し、米国を世界最大の感染国にしてしまったことや、今回の事件の対応でもまったく指導力を発揮できていないことなどが響いているのか、最新の世論調査でトランプ大統領は、民主党のバイデン候補に10ポイントもの差をつけられているようです。
そして今回の暴行死事件がきっかけで始まった米国の警察と刑事司法制度の改革を求める運動にも、トランプ大統領は相変わらず反対を表明しています。