中国内陸部・甘粛省の農村に生きる貧しい夫婦を描いた映画「隠入塵煙(Return to Dust)」が中国国内の主要配信サイトから削除され、議論を呼んでいるようです。
1頭のロバしか財産のない農民と左腕に障害を抱える妻が共に農作業に励みながら生きる姿が共感を呼び、2月のベルリン国際映画祭のコンペティション部門に出品された作品です。
中国では7月上旬の封切り後、映画評価サイトで10点満点中8.5点の高評価を得たのですが、9月末に突如、複数の大手配信サイトで視聴できなくなりました。
映画には「中国の農村はここまで貧しいとの偏見を助長する」との批判も寄せられ、ネット上で活発に議論されていたといいます。
隠入塵煙
このニュースを聞いて思い出したのは1999年制作の映画「山の郵便配達」でした。
父親と息子が二人で郵便配達をする3日間を淡々と追いながら、少しずつ変化していく親子関係を静かに描いた秀作です。
80年代初頭の中国・湖南省西部の山間地帯。長年、責任と誇りを胸に郵便配達をしてきた男にも引退の時が近づいていました。
ある日、男はその仕事を息子に引き継がせるため、息子とともに自らの最後の仕事へと出発します。
それは一度の配達に2泊3日を要する過酷な道のりです。重い郵便袋を背に、愛犬を連れ、険しい山道を辿り、いくつもの村を訪ねます。
父は多くを語らず、黙々と仕事をこなす中で、道筋や集配の手順、そしてこの仕事の責任の重さと誇りを子に伝えようとします。
父に対して少なからずわだかまりを抱えていた息子も、そんな父の背中を見ながら、徐々に父への思いを新たにしていきます。
山の郵便配達
山水画のような険しい山道を往く郵便配達人の姿が印象に残った映画でした。
件の「隠入塵煙」は私もまだ観ることはできていませんが、甘粛省の農村の生活が描かれているこの作品は、可能になれば是非視聴してみたいものです。
習政権は、2020年末までに農村の貧困を解消したと宣言しています。
しかし甘粛省の同年(2020年)の1人あたりの平均可処分所得は約2万元(約40万円)で、最も多い上海の3分の1以下です。
この30年で中国は急成長を遂げてきたわけですが、農山村の生活水準は、以前とそれほど変わりがないように映ります。