自民党総裁選が始まり、菅・石破・岸田の3氏による本格的な論戦がはじまりました。
大雑把にみると、菅氏が規制改革、石破氏が地方創生を目指す社会変革、岸田氏が格差是正というのが主たる主張のようです。
私の受け止めからすると、同様の方向に主張のベクトルが向いているように感じました。
菅氏は7年8か月に及ぶ安倍長期政権において、官房長官として行政を束ねてきた実績があり、厚生労働省の再編を実施するという論には大いに期待したいところです。
そして石破氏の予てからの問題意識である、地方創生に本腰を入れるべきとの主張には、地方からの熱い思いが背景にあり、石破氏の地方での人気と連動するものなのでしょうか。
急速に人口減少がすすむ日本ですが、人口問題だけでなく以下のような懸念材料があります。
⓵財政における持続可能性
国内総生産(GDP)の2倍に及ぶ政府の借金を将来世代にツケ回ししてい
る。
②格差と子ども・若者をめぐる持続可能性
貧困世帯の割合が90年代半ば以降、着実に増加している一方、子ども・若 者への政策的支援が国際的に見て極めて手薄である。
③コミュニティや「つながり」に関する持続可能性
「世界価値観調査World Values Survey」をみると、「社会的孤立度」が日本 は先進諸国において、最も高い国である。
こうした事態を踏まえ、日本社会の持続可能性は相当危うい状況になっているのではないか。
このような問題意識から、2016年に京都大学に設置された「日立京大ラボ」では、AIを活用した日本社会の未来に関するシミュレーションと政策提言を17年9月にまとめ公表しています。
【AIが示す「都市集中」の限界】
シミュレーションの結果として明らかになったのは、次のような内容でした。
(1)2050年に向けた未来シナリオとして、主に「都市集中型」と「地方分散型」のグループがあり、人口、地域の持続可能性や格差、健康、幸福の観点からは地方分散型の方が望ましい。このまま都市集中型が進むと、日本社会の持続可能性が低くなる。
(2)今から約8~10年後に、都市集中型シナリオと地方分散型シナリオとの分岐が発生し、以降は両シナリオが再び交わることはない。後者への移行を実現するには、環境課税、地域経済を促す再生可能エネルギーの活性化、まちづくりのための地域公共交通機関の充実、地域コミュニティーを支える文化や倫理の伝承、住民・地域社会の資産形成を促す社会保障などの政策が有効である。
(3)約17~20年後に、地方分散型シナリオの中で持続可能性が高いものとそうでないものとの分岐が生じ、前者に導くためにはいくつかの政策対応が重要となる。 (概要は「日立京大ラボ」を参照)。
この共同研究を進めてきた京大の広井教授は次のように述べています。
研究を進めた私自身にとってもある意味で予想外だったのだが、AIによる日本の未来について今回のシミュレーションが示したのは、日本全体の持続可能性を高めていく上で、「都市集中」——とりわけその象徴としての東京への「一極集中」——か、「地方分散」かという分岐ないし対立軸が、最も本質的な分岐点ないし選択肢であるという内容だった。
【多極集中へと向かう方向へ】
そして広井教授らは、東京一極集中を解消し、多極集中へと向かうべきと提言しています。
「多極集中」とは、「一極集中」でも、その対概念としての「多極分散」の いずれとも異なる都市・地域の在り方だ。国土の「極」となる都市・地域は多く存在するが、しかしそうした極となる場所は、できる限り「集約的」で、かつ歩行者中心の「コミュニティー空間」であることが重視される。
国際比較で見ると、ドイツやデンマークなどはすでにかなりそれに近い形を実現している都市・地域がある。そしてこうした「多極集中」という姿は、先ほどのAIのシミュレーションが示した「地方分散型」という方向と重なっていると思われる。
近年の日本の若い世代は、かつての高度成長期に比べて「ローカル志向」を強めていることが、各種統計や私の周りにいる学生たちの関心からもうかがわれる。
日本社会の持続可能性を高めていくためにも、「都市-農村間」ないし「中央-地方間」のさまざまな再分配、そしてまちづくり、公共交通、若者支援などに関する公共政策を複合的な形で展開していくことが求められている。
(以上)
新しい政権は「多極集中型」社会の実現に向けて、一歩踏み出すことができるのでしょうか。
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